研究内容

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最近の研究例

最近の研究例(1)電場吸収スペクトルの新奇解析法(積分法)

K. Awasthi, T. Iimori, N. Ohta: J. Phys. Chem. C 118, 18170 (2014); 119, 4351 (2015)

電場吸収スペクトル(E-Aスペクトル)の解析は,通常は吸収スペクトルを各吸収帯に分け,E-Aスペクトルを各々の吸収帯の零次微分,1次微分,2次微分の線形結合により再現できるように,各微分成分の係数を求める方法で行っている(微分法とよぶ事ができる)。そして得られる係数より,励起に伴う電気双極子モーメントや分子分極率の変化量を求めることができる。ただし,この解析方法を用いることができるのは、E-Aスペクトルに対応する吸収帯を予め認識できる場合である。例えば強いE-A信号が得られるような場合でも、吸収強度が非常に小さくて,強い他の吸収帯に埋もれているような場合は,この解析方法は使用できない。例えば,PbSe量子ドットおよびPbS量子ビットのE-Aスペクトルはその一例である。そこで新たな解析方法(積分法とよぶ)を適用することで、PbSeおよびPbSナノ粒子のE-Aスペクトルの解析を行った。
 新たな解析方法はE-Aスペクトルの1回積分および2回積分を求め,それらを再現する,いわゆる積分法である。すなわちE-A スペクトルで2次微分形を与えるものは,1回積分スペクトルでは1次微分形、2回積分スペクトルでは零次微分形(吸収帯形状)を与え、E-Aスペクトルで1次微分形を与えるものは1回積分スペクトルでは零次微分形を、2回積分スペクトルでは吸収帯の積分形状を与えることになる。したがって,E-Aスペクトルに加えて,E-Aスペクトルの1回積分スペクトルおよび2回積分スペクトルを再現する解析法である。かかる解析法を用いることで,より厳密な解析を行う事ができると同時に図に示すように,通常の吸収スペクトルでは測定できない吸収帯の同定が可能となる。

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最近の研究例(2)ナノ秒パルス電場による細胞内機能の制御
(アポトーシスの誘導と蛍光寿命イメージング画像測定)

K. Awasthi, T. Nakabayashi, N. Ohta, J. Phys. Chem.B 116, 11159 (2012)
北海道医療新聞紹介(2012年10月19日)

蛍光寿命イメージングシステムと金電極システムを組み合わせ,ナノ秒パルス電場による細胞変化を単一細胞レベルで観察するシステムを製作しました(図1)。櫛形金電極の間隙で培養された細胞を,顕微鏡でその場観察しました。
ナノ秒パルス電場を印加することで,細胞にアポトーシスを誘起させることができました。図2はHeLa細胞のナノ秒パルス電場効果の一例です。Aが電場印加前,Bが4 MV m–1のパルス電場を1 kHzの繰り返しで60秒間印加した後に測定した画像で、左がHeLa細胞内に発現した蛍光タンパク質(EGFP)の蛍光強度画像,右が対応する蛍光寿命画像になり,電場印加前と印加後の蛍光寿命の値の分布(ヒストグラム)が図2Cになります。図2Bの蛍光強度画像において,電場を印加することによって,細胞に複数の突起ができたアポトーシス特有の構造が観測されていることがわかります。さらに電場によってEGFPの蛍光寿命が短くなることがわかります (図2C参照)。パルス電場でアポトーシスが誘起され、EGFPの周囲の細胞内環境が変化したことを示しています。
試薬を用いて細胞にアポトーシスを誘導することができますが,時には数時間の時間が必要になります。本結果は,ナノ秒パルス電場を用いることによって,試薬を必要とせずに,短時間でアポトーシスを誘起できることを示しており,迅速に悪性細胞の死滅や疾病の治癒ができることを示唆しています。

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最近の研究例(3)光と電場により誘起される絶縁体ー金属間転移

F. Sabeth, T. Iimori, N. Ohta, J. Am. Chem. Soc. 134, 6984 (2012)
科学新聞紹介(2012年5月18日)

光と電場により、電気伝導特性がどのように変化するかは、基礎研究としてだけではなく、応用研究としても大変興味の持たれるところです。私達は、有機モット絶縁体として知られている重水素化κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの単結晶表面に,約400μmの間隔で2端子の電極を作成し、電極間に約40―50msの時間幅を持つパルス電圧を加え,電流値を測定することによって電気伝導度を測定しました。さらに電極間に可視光のパルスレーザー光を照射し,光照射後の電気伝導度の時間変化を追跡しました。  
この試料の抵抗値は,温度の低下と共に増大することがわかります(図1).15Kにおいて,結晶はモット絶縁体状態となりますが,この状態でさまざまな大きさのパルス電圧をかけて,電流値を測定しました(図2).その結果,ある電圧値以下では、無視できるほど小さな電流値しか観測できないが,かける電圧を増加させると突然電流が流れはじめ、ある電圧値を境に,急峻な電気伝導度の変化(スイッチング)がみられました.電場誘起の絶縁体—金属転移です。また図3に見られるように電圧を上げ、下げでスイッチングが起こる電圧が異なる、いわゆるヒステリシスも観測されました。このスイッチングは,温度に依存した変化を示すことも明らかになりました。  
また,電圧をかけると同時に,可視光パルスレーザー(波長470ナノメートル)を照射したところ,非線形伝導特性が変化することがわかりました(図4).低電圧(図4では17V)では,光を当てない状態では伝導度のスイッチングは生じませんが,レーザー光をパルス電圧と同時に作用させると,スイッチングを誘起することが分かります.光と電場の相乗効果として電気伝導度を制御できることがわかりました。

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最近の研究例(4)溶液中における電場吸収および電場発光測定

H.-C. Chiang, T. Iimori, T. Onodera, H. Oikawa, N. Ohta, J. Phys. Chem. C 116, 8230-8235 (2012)
H.-C. Chiang, N. Ohta, J. Phys. Chem. B 117, 3861 (2013)

溶液中での電場吸収(E-A)、電場発光(E-PL)スペクトルを偏光実験と絡めながら測定できるようになりました。例えば、非常に大きな非線形光学効果を示すことが知られているDASTの微結晶(0.5 mm程度)を無極性溶媒に溶かした試料について、励起光の偏光方向と電場方向のなす角(χ)をいろいろと変えて偏光電場吸収を測定しました(図1)。発光励起スペクトルとの比較等から、この微結晶の吸収スペクトルは3つの成分からなっていることがわかります(図2)。そして、χが54.7゜(マジック角)の場合は、吸収スペクトルは各成分の吸収スペクトルの1次微分に非常に似た形になり、χが90゜の場合は、吸収スペクトルと非常に似た形になることがわかりました。このことは、DAST微結晶は電気双極子モーメントの存在により、電場方向に配向することを意味します。解析結果より、微結晶の電気双極子モーメントの大きさは40000デバイ程度と非常に大きい事がわかりました。通常の分子の電気双極子モーメントは10デバイ程度ですので、DAST微結晶ではいかに大きいかがわかります。またピレンを無極性溶媒に溶かした試料についてE-Aスペクトル(図3)、およびE-PLスペクトル(図4)を測定できました。ピレンは濃度が高くなると励起錯体(エキシマー)を形成することが知られており、励起されたピレン自身の局在励起状態からのモノマー発光以外に長波長側にブロードなエキシマー蛍光が観測されます。E-PLスペクトルに含まれる1次微分の寄与から、エキシマーの分子分極率は、ピレンの基底状態に比べて、270 Åだけ大きい事がわかりました。また、モノマー蛍光もエキシマー蛍光も電場により強度が増加することがわかりました。これはモノマーとエキシマーは平衡になっており、エキシマーの無輻射過程が電場により、抑制されるためと考えられます。これらの結果は、高分子中に埋め込まれた場合とは大きく異なっています(Bull. Chem. Soc. Jpn. 75, 1637 (2002))。

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最近の研究例(5)無染色で単一細胞内の水素イオン濃度を可視化に成功

J. Phys.Chem. B 115, 10385 (2011)
科学新聞紹介(2011年9月2日)、日刊工業新聞紹介(2011年9月7日)

水素イオン濃度(pH)は,人間の体にとっても極めて重要です。人間の体の中では,この水素イオンの濃度が一定になるように調整機能が働いていますが,バランスが崩れると,嘔吐や呼吸困難を引き起こします。またガン化した細胞では,細胞の中の水素イオン濃度が増加することも報告されています。水溶液の水素イオン濃度は,リトマス紙などを用いて簡単に調べることができますが,細胞や生体組織の中ではリトマス紙を使うことはができません。そこで,細胞を蛍光物質で染色し,その物質から発する蛍光の強度から細胞内の水素イオン濃度が求められてきました。しかし,染色による方法では蛍光物質という異物を細胞内に導入するため,細胞本来の状態を変化させることになります。また染色に時間を要するため,手術などにおいて迅速な判断を行うことができません。蛍光物質の毒性も検討しなければならない課題です。

私達は、細胞や生体組織の中の水素イオン濃度を,細胞の“あるがままの状態”でその場で測定する蛍光寿命イメージング法の開発に着手し,培養細胞を用いて無染色での水素イオン濃度の測定に成功しました。細胞に含まれるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)からの蛍光の寿命が水素イオン濃度に敏感に応答することを用いています(図1参照)。NADHは補酵素の働きを示す化合物であり,ほぼすべての細胞に存在することが知られており、観測される発光は細胞自身からのものということで自家蛍光とよばれています。蛍光強度は様々な実験条件に依存するため,細胞や組織における値を強度測定により定量的に求めることは難しいのですが,開発した方法は,蛍光強度ではなく,蛍光寿命を測定することによって,高感度検出を実現しています。細胞内の水素イオン濃度の増加に応じてNADHの蛍光寿命が大きくなることを見出し,蛍光寿命イメージング測定により,培養細胞中の水素イオン濃度が,NADHの蛍光寿命を用いて得られることを示しました(図2参照)。細胞内に本来存在する発光種を利用しているため,細胞を染色することなく細胞中の水素イオン濃度をその場で求めることができ,迅速な判断が可能である。疾病の早期検出やガン診断などへの応用が期待されると考えています。

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最近の研究例(6)有機伝導体の電気伝導度の光応答

J. Phys. Chem. C 113, 4654 (2009);J. Phys. Chem. C 114, 9070 (2010), 現代化学(2011年6月号)

有機超伝導体の電気伝導度の光応答

κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Brの結晶を対象に、超伝導転移温度近傍で特異的な光照射効果を示すことを明らかにすることができました。相転移と臨界現象の理論によれば、臨界(相転移)温度に近づくにつれて緩和時間が発散的に長くなることが予測されます。また、高温側から臨界温度に近づく場合と低温側から近づく場合を比較すると、緩和時間の温度依存性は、臨界点に対して対称的に発散すると考えられています。今回観測された緩和時間は、Tcではなく、それよりも低い温度で著しく長くなっており、臨界点に対して非対称的になっています。このことは、臨界現象における有機超伝導体の特異性を示しています。

光による絶縁体から金属への変化および電気伝導度のメモリー効果

α-(BEDT-TTF)2I3の結晶は115Kでは絶縁体であり、光を照射しない時は電流はほとんど流れません。一方、光照射を行うと、電流値が100倍程度増加し、電気伝導度の高い金属状態へとスイッチングが起こること、 しかも光照射時に掛ける電場のパルス幅に依存してメモリ−効果が観測されることを見つけました(電場の時間幅が小さい時は光を切ると絶縁体に戻るが、時間幅を大きくすると光を切っても金属状態を記憶している)。

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最近の研究例(7)蛍光特性が電場と磁場の相乗効果を示す

J. Photochem. Photobiol. A 221, 1 (2011) (Invited Feature Article)

ハイパーファイン相互作用により蛍光特性が磁場効果を示すのは光誘起電子移動反応を示すドナ−(D、電子供与体)とアクセプター(A、電子受容体)が比較的離れていて交換相互作用が小さく、ラジカルイオン対のスピン一重項状態とスピン三重項状態のエネルギー差が小さいケースです。今回光誘起電子移動反応系に電場と磁場を同時に作用させることにより、磁場効果がほとんど観測されない場合でも、電場効果に顕著な磁場効果が観測されること、すなわち光励起ダイナミクスへの電場と磁場の相乗効果が存在することを見つけました。

これは電場により、ラジカルイオン対の準位がシフトすること、さらには正孔あるいは電子が動いてイオン対の長さが変化することによると考えています。電場と磁場の相乗効果により、図に示すように通常は見られない局在励起状態からの蛍光も磁場効果を示します。(正確には、電場により消光した蛍光が磁場により、変化する現象なので電場効果への磁場効果)

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